Sarraceniaにまつわるエトセトラ

石高 和弘

食虫植物の中ではかなり大型で、原種としては8種類しかないものの、様々な変種や亜種が知られ、また、それらを元にした膨大な数の交配種を持つSarraceniaは栽培の容易さもあって非常にポピュラーな存在といえるでしょう。しかしながら、それらにも栽培テクニックの奥義というものがあるはずで、それにより楽しみも増す事でしょう。 今回私の知る限りのことを書いてみましたので、参考になれば幸いです。

1. たくさん作ろう
盆栽仕立て?もいいが、はそれほど繊細な草姿でもなく、割合飽きやすい(あくまで私見ですが)ので、スペースの許す限り大量に作られてはいかがでしょうか。数が多いと管理が大変そうですが、Sarraceniaは結構放任栽培が可能で,コツさえつかめば意外とたやすいものです。ポイントは出来るだけ植え替えの不要なコンポストを選ぶ事と、季節ごとの管理が容易な栽培場を作る事です。

2. コンポストについて
近年とくに植え替えの頻度の多いミズゴケの代りに砂利植えを」される方が多くなったのではないかと思いますが、配合のポイントとしては1に水はけが良く、2に根にやさしい繊維質を含み、3に、PH調整の聞くものが良いと思います。私の場合は1には軽石の小粒、2には腐りにくさと扱い易さでタケダの21、3には鹿沼土とし、さらに根回りを固める理由で赤玉土の小粒を加えています。なお、鹿沼土の粘度ですが、この土は冬期に用土が凍ると膨張し、株を持ち上げる欠点があるため、出来るだけ微粒とよばれるごく細かいものが理想なのですが、私の所では手に入らないので、硬質の大粒をゴロ土がわりに底に敷いてみました。これだと例え鉢の表面が凍っても鹿沼の所までは凍る事が無いので(凍ったら枯れる)大丈夫です。このほかにも色々な組み合わせがあると思いますので各自工夫してみてください。

3. 鉢の大きさは
Sarraceniaに限らず植物全体に言えると思うのですが、それぞれに最適の鉢の大きさと言うのがある様です。Sarraceniaの場合、食虫植物の中では根が発達しているほうですが、それでも一般の植物から見れば1/4程度でしかなく、その少ない根で一生懸命周りの土を自分に合う土質に改造しているように思われます。要するにその負担を少しでも顕現すべく小さめの鉢を使うのです。具体的には倭性種で2号鉢、高性種では3号鉢くらいで、根が長い植物なので出来るだけ深いものが望ましいでしょう。私はポリポットの鉢を使っていますが、手ごろのサイズが見つからなかったので、エバーポットという少し固めで底の四方に小さな穴が空いているやつの3.5号鉢(10.5cm径/12cm高)を使っています。この鉢のメリットは固めで扱い易く、底穴が小さいので、ゴロ土を敷けば鉢底ネットが要らない点で、欠点は私の買った店では置いても売れないからと言う事で一束(1,200鉢)まとめて買わされて、貧乏人の私には痛い出費になった事で、おかげで少なくともSarraceniaの鉢に関しては一生かわずに済みそうです。誰か買いません?

4. 水やりは
根の呼吸を妨げる溶存酸素の乏しい水や湯水に腰水するのは好ましくありません。かけ流しに出来れば理想的ですが、水道代が馬鹿にならないので、普通は頭からの潅水となりますが、鉢が小さいと乾くのも早く管理が大変です。放任栽培がモットーな私にそのようなマメな管理が出来るはずも無く、腰水に頼っていますが、水深は通常は1〜2cmと浅くし、梅雨の長雨の時だけ腰水を止めています。逆に冬場の極寒時は株の根元まで水没させて凍結を防ぎます。Sarraceniaは低温にはかなり強いのですが、凍結した場合、それよりも乾燥でやられるからです。私の所では下水用のエンビ管(10cm径)と木材で枠を作り、それにビニールを張ったプールを使っており、水位は木材の高さで調節しております。またそこに土を敷けば水質の安定をはじめ、渇水時にもいくらかの水分供給源となります。あと水温上昇を抑える為、鉢を詰めて並べてるのも手ですが、通風が悪くなるので最善ではなく、出来れば鉢トレーの使用をお勧めします。鉢の転倒も防げ、一石二鳥です。

5. 貴方のSarracenia、茎が伸びすぎていませんか?
Sarraceniaの病気にウイルスなるものがあり、発病すると大変見苦しく、絶対治らない為焼き捨てるしかないのですが、葉がよじれたからといってすぐウイルスと決め付けるのはどうかと思います。Sarraceniaは調子を崩すとウイルスでなくとも葉がよじれるものです。そんな時、まず土をはずし、根の状態を見てください。大抵バックバルブと呼ばれる茎が長く伸びており、今年の芽の下には根がついていない場合が多いはずです。これはSarraceniaが栄養不足に苦しんでいる状態なのです。助ける方法は一つ、昨年の葉と一昨年の葉がついていた境目の茎の所でぶった切る、要するに株分けをするのです。そう、この時が植え替えの時期なのです。植え替えはなにも春でなくても良いのです。(出来れば春が理想的ですが)ここで注意しなくてはいけないのは、刃物を使わず手で切り離す(折る)ことで、万一、刃物にウイルスがついていると、切られた株は100%感染するからです。どうしても刃物を使いたい場合は日で充分消毒してから行いますが、あまりお勧めできません。また余ったバルブは3cmぐらいにカットして浅く植えておくとやがて芽が出てきます。それでもやはりウイルスと思われる株は他と隔離しつつも頑張って栽培を続けてみてください。花が咲き、種子が採れればその種子はウイルスフリーです。病株を捨てるのはそれからでも遅くはありません。あなたのSarracenia、茎が伸びすぎていませんか?

6. 施肥は有効か
「Sarraceniaは食虫植物に関しては根が発達しており、株が若いうちなら施肥は有効だ」その言葉を鵜呑みにした私は実生苗にマグアンプKをばらまき、目に見えた効果が無い事に業を煮やし用土の中にもたくさん埋め込んだところ、根に触れた為かたちまちにして全滅させてしまった苦い思い出があります。食虫植物全体に言えると思うのですが、施肥が有効な場合はあるものの、さじ加減が難しく、一つ間違えるとアウトとなる訳です。各自がそれぞれの技量に応じて用いるべきでしょう。ただ、ある著名な大家のお話だと、施肥が有効なのは実生1年目までで、それ以降は雑草がはびこるだけでSarraceniaにとってはかえって迷惑な状態になるそうです。なお、施肥は葉面散布にとどめるほうが安全で、肥培しすぎると細かく株別れして扱いにくくなります。

7. アリマキ対策は
ウイルスの媒介者であるこの虫はSarracenia栽培者にとって、もっともいやな存在で、少量栽培の内は手で取り除けるものの、数百鉢ともなるととても手に負えるものではありません。私はオルトランを使いますが、根にダメージを与えるのが恐いので、葉面散布で薄めの液を何回か噴霧します。親虫を殺す訳ではないので、様子を見ながら続けるしかありません。かの大家はアリマキを根こそぎ補虫する S.flava種を発見されたそうで、これがあると薬剤散布は無用との事です。自然の力は侮れないものです。

8. 根茎の腐れについて
Sarraceniaでもっとも恐ろしい病気に軟腐病があり、これは発病すると手の施しようがないといわれていますが、腐りによっては切除によって助けられるものもあります。火で充分に消毒した刃物で幹部を完全に切り取り、しばらくは頭からの潅水は控えてください。刃物を使うとウイルスが入る可能性があるのですが、他に方法がありません。芽が無くなってもやがて脇芽を出してきます。

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