栽培家の愛は、ありふれた食虫植物を救うか?
〜Save your hands a common Insectivorous Plants from death?〜

稲穂 徳人

唐突だが、皆さんは「アフリカナバガノモウセンゴケ」を栽培しておられるだろうか? そう、大型で真っ赤な腺毛をつけたバターナイフを細くしたような葉のごくありふれたDroseraです。実は我が家にはこれは一株しかなくなってしまいました。D.capensisならば、3系統約10株づつはあるでしょう。
上記の文章に矛盾を感じた方、確かにおかしいですね。「アフリカナガバノモウセンゴケ」はD.capensisの和名です。和名に固執するのは、つまらぬこだわりに過ぎないのですが、私は敢えてこの呼称を大変気に入っているので今回は使わせてください。と、言うのも私が好きなこの植物が最近では大変少なくなっている。少なくても関東近郊ではかなり少なくなっているように思えてならないのです。馬鹿な事を言うな、稲穂は田舎者だから知るまいが、伊勢丹の屋上にいけば幾らでも売っているではないか。とおっしゃる方も入るかもしれないが、それは所謂Narrowleafタイプ。あるいはAllred Albaといった変種の系統であり、私が敢えて和名で呼んでいるのはNarrow Leaf の普及に伴い現在ではBloadleafと呼ばれている、昔からあるタイプのものです。田辺氏や国松氏といったDroseraのエキスパートブリーダーの努力で、会誌や情報誌の分上覧で購入する事はまだ何とかできるのですが、店頭や即売会では、まずこの系統を見かけなくなってしまいました。あるのはNarrowleafタイプのものばかりなのです。知らぬ間に日本人には馴染み深く、あれほど普及していた「アフリカナガバノモウセンゴケ」は廃れてしまったのか?そんな危惧を抱かずに入られない今日この頃です。
どうしても、増殖が容易で簡単にどんどん殖えるものは、栽培場の中でも蔑ろにされがちです。Pinguiculaの中でも、私のペンネームにも使っているP.sethosには交配種の為か大変丈夫で、おまけに葉挿しをすれば容易く増殖できる強健種です。花もシンプルな柄もピンクの可愛らしい花で、何とも心を和ませるものですが、分譲などをしても必ず余ってしまうものの一つです。メキシカンピンギキュラはコレクション的志向が強い植物で、マニアになればなるほど難しい品種や珍しい交配種に食指が動くものですが、反面こういった地味な植物が蔑ろにされてしまっている現実は、私自身とても悲しむべき事だと思っています。これらは、長い食虫植物栽培の移り変わりの中で、栽培家の技術向上やコレクション遍歴の中にあって、いつも私たちのそばにいた隣人のようなものではないでしょうか?大鉢いっぱいに群生させて、驚くような立派な株にしたり,希少な栽培の難しい種類では出来ない楽しみ方が、探せば幾らでもあると思います。また、新たに食虫植物栽培をしてみたいという方に、安価で譲ってあげるのもいいでしょう。折りしも今年はガーデニングがブームらしく、植物に関心を持ち始めている人も多いと聞いています。もしかすると、新たなファンを迎え入れるチャンスかもしれません。また、そういった方には見事な特大株や何本も花茎を上げた開花株を見せてあげたら、どういった反応を示すでしょうか?
悲しい事件が毎日のようにニュースで報じられ、人々の心も荒んで乾いてきていると警告を発せられる今日この頃です。ふと気がつくと身近にいた筈の隣人さえもが姿を消してしまっていた…・・そんな事にはなら無い様にしたいものですね。 貴方の優しさを、小さな友人達にも分けてあげてください………

このコラムに関するご意見などは、よろしければ稲穂までお寄せください。

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