ネペンテスの話あれこれ及びN.minami

岡安智之

1. N.hybrida(khasiana×gracilis)同交配について。
これはかつて交配されたN.hybridaそのものではないが、同交配であり、両親の特長がよく現れている。何人かの人達に、写真を見てもらつたところ、なかなか良いですねとの評を得ている。現在でもヒヨウタンウツボカズラ=N.hybridaと思つている人が多いし、ほとんどの園芸書もそのように書かれている。このN.hybrida同交配は、その間違いの証明ともいえる。N.hybridaの真性種は日本には最初から持ち込まれてなく、現在は絶種していると考えた方が自然だろう。もし、この記事を岡村氏が読まれていたら、この場を借りてお願いします。ぜひ増殖されて(もちろん適切な名前を付けて)、一般に普及してください!!

2. 私の知っているネペンテス栽培法
一般に、ネペンテスというと、温室がないと栽培できない、だから自分にはダメだ、と思つている人が多いと思う。もちろん、必ず必要というわけではなく、中には漫室もなしで、ネペンテスや熱帯ドロセラを作つている人もいる。 しかし、この方法では、何とか冬越しさせることはできても、袋はつかないので、冬でも袋を楽しみたければ、20度以上に保つてやる必要がある。それこそシーズンオフのない食虫植物、と言える。
熱帯魚用の水槽を購入し、5センチくらい水を張る。そこに台を入れ、、その上に金網を入れ、その上にネペンテスを植えた鉢を並べる。くれぐれも、腰水状態にならないように。水槽の水は、熱帯魚用のヒーターで加温する。サーモスタットのセンサーは空中に設置する。温度設定は、25度前後にしておく。必ずガラスで蓋をする。少しの隙問は差し支えない。この方法でも、冬の間、25度前後に保つことができる。しかも、湿度を高く保てる。但し、あまりたくさんは入らない。
室内用の小型温室を使う場合、20度以上に保つには、加温加湿器というものを使つた方がよい。これなら温度と湿度を安定させることができるだろう。パネルヒーターなどでは、加温効率が悪く、失敗した苦い体験がある。 それから、まめに管理できる人は別として、素焼き鉢ではなく、プラスチック製の鉢を使うこと。素焼き鉢では乾燥しすぎて気がついたときには葉がしおれたりする。私も素焼き鉢で乾燥しすぎで随分枯らした苦い経験がある。 みなさんも、シーズンオフのないネペンテスを楽しんでみてください。

3. ネペンテスの入手法
通信販売で求めるのなら、いちばんのお勧めは、人丈島の一正園。いろいろな栽培家から送られてくるためか、種類も非常に多い。ここのネペンテスの苗は、大きくて、しつかりしている。しかし、その反面、徒長した先端部を挿し木したものも多く、袋も上の方につくタイプのものが目立つ。
大きさは、挿し木したもので高さ20センチくらい、実生苗が葉長5〜10センチくらい。ぜひ、購入されることをお勧めする。なお、当然ながら冬の間は(温度の関係上)発送できないとのこと。なお、事前に連絡しておけば、栽培状況を見学でき、直売もしてくれる。 東京近郊に住んでいる人は、新宿・伊勢丹の園芸売場に出かけるのもよい。千葉県の愛好家の協力で、販売品も充実している。ときには、思わぬ珍種が出ることもあるので、要チェック。
ネベンテスはマニアックな面もあるので、愛好家から直接入手する方法もある。会などに入ったからと言つてなんでも入手できる、というわけにはいかない。集会等に出たり、手紙等で親交を深めることで、思わぬ種類が安く手に入ることもある。なお、いい加減な業者(金銭的トラプルが多い)もあるので、特に、通販利用の場合はご注意下さい。

4. 本物は誰?―N.Hookeliana―編
N.Hooklianaは、raffliesianaXampullariaであるが、近年自生地から採集導入されたものや人工的に交配されたHookeliana(Hooke1iana山本)をみると、通称在来系と言われるものは本物かな?と思うことがある。日の出花壇写真集の第1集を持つている人は、開けてみてほしい。同じページに、Hooklianaとintermediaの写真があるが、全くのそっくりさんである。つまり在来系のものは、本物ではなく、交配種のintermedia(rafflesiana×不明種、一説にはhirsutaとも)であると考えられるのである。
「Hookeliana山本には、green、vittata、redの3系統があるが、私はまだ実物を見たことはないが、とても大きい袋で、ampullariaのお化けみたいだという人もいる。 日の出花壇には、フーケリアナセントサというものが数万円で裁つていたが、セントサとは何を意味するのか?採集地のデータなどは何もないので、これでは正式名称としては全く通用しない。

5. N.minamiについて97年11月16日 食虫植物研究会定例会から
最初にみんなでスライドを見た。アマゾンの食虫植物について、の題で1時間ほど。ドロセラが中心だつたが、前半は食虫植物と関係のないスライドで固められていて、なかなか内容も面白いものだつた。 さて、スライド上映の後は休憩をはさんで展示品の説明となつた。最近の傾向としてはブームなのか、ピンギクラ類を持参される人が多いが、ネペンテス、サラセニア等も出された。 この展示品の中に、Nepenthes Shinjyukuというものがあり、11年前に、八丈島の日の出花壇で購入したという。これについて、越川、日下部両氏は、shinjyukuではなく、minamienslsだと指摘された。日下部氏は、日の出花壇は我を張つてminamienslsの名前を使わない、現在日の出花壇と一正園は不仲だと言われていた。一正園と日の出花壇の関係については、この題から大きく外れてしまうので、また別の機会に譲りたい。この日下部氏の指摘について、持つてきた鈴木稔氏とその師匠(?)である豊田良男氏は不服そうな顔をしていたのが印象的だつた。

6. Nepenthes minamiについて
さて、私の名前の頭に付けた(気に入つているので)minamlについて書こう。 八丈島の美南海(みなみ)農園で、当時在島されていた現兵庫県在住の内藤弘昭氏が作出されたものである。交配親は、Mixta01soの雌株とWigieyanaの雄株と言うことである。命名者は日下部氏である。なお、日の出花壇写真集の説明では菊池という人が作出したとあるが、全くの間違いである。
Mixta01soは、1980年頃、神奈川県の日本国芸で作出されたもので、mixtaの雌株とmaximaの雄株との交配種で、本来は0isoと言うべきである。葉の形がmixtaとよく似ているので、これがmixtaの名前で普及した。本来のmixta、つまり真正mixtaは、northianaの雌株とmaximaの雄株との交配種で、文字通リミックスしたという意味である。この種は、私の予想ではhybrida同様、絶種しているものと思う。
Wrig1eyanaは、mirablllsの雌株とHookelianaの雄株との人工交配種である。 問題のN.shinjyukuは、戦前に新宿御苑で、牧野氏が作出されたという。この交配親は、真性mixtaの雌株とWrig1eyanaの雄株である。
まとめてみると、次のようになる。
l N,shinjyuku 真性mixta×Wi31eyana
l N.minami MiXta01so×Wigleyana
注:左が雌株、右が雄株。
このように、交配親が違うため、N.shinjyukuとN.minamlは、全く別な交配種である。 私の知つている範囲では、N.minamiには、大きく分けて3つの系統がある。
l minami:基本種と言われる、ただのminami。絶種こそしていないが、貴稀種。以前、岡村氏が分譲していたものは、この系統である。
l minami"Triumph":広葉種といわれるもので、袋の形は、襟が大きく、赤い色である。袋の模様は、独立斑点になる。トライアンフ。
l minami"LargeLeaf":広葉種のもう一つの系統である。袋の模様は、N.maximaに似た線状網目模様になる。日の出花壇写真集では、grandifo1laという名前が付いていたが、これはラチン語で、国際命名規約では園芸雑種にはラテン語名は使用できないとの内規があるので、命名の意味(広大な葉)を尊重して英語名のLargeLeafという名前をここでは使う。ラージリーフ。
"minamiensiS"のうち、"ensis"は、自生地に由来するラテン語の語尾で、くどいが、人工雑種にはラテン語は使えないので、正式には"minamiensis"ではなく、"minami"となる。
このminamiのうち、広葉種は、Triumphは一正園に、LargeLeafは日の出花壇に渡っている。何故このような渡り方をしたのかは全く分からない。
問題のN.shiniyukuはガーデンライフ編食虫植物にスケッチが載っていたが、絶種したと言われている。 このような経緯から、日の出花壇のN.shinjyukuは、明らかな偽名であり、N,minamiに訂正されるべきものである。日の出花壇写真集ではminamiとshinjyukuは完全な同一交配だと書かれているが、同じmixtaでも真正とolsoの違いから、完全な同交配とは言えず、全くの間違い、ということになる!
中には、本人がそう思つているのだからいいじやないか、という人がいるかもしれない。だが、全く別物なのに、違う名前で呼ぶことに対し、違和感はないのだろうか。これはminamiや絶種したと言われるN.shinjyukuの立場になれば分かるはずだろう。 私が本格的に(?)栽培を始めた頃(1981年)は、日の出花壇もminamiensisの名前で販売していたことは覚えている。次の年(82年)に写真集を出してからは、shinjyukuの名前にすり替えられていた。裏の解説は、豊田良男氏が書いたということから、そのあたりに何かがあるのではないかと私は推測しているのだが・・・。
11月定例会で鈴木稔氏がshinjyukuだと言つて持つてきたものは、minami"LargeLeaf"である。研究会会誌132号に出ていた、岡村氏のスケッチそつくりだからである。
minamiは、個人的にはdyerianaよりも良い種類ではないかと思つている。"Triumph"以外のものは、あまり見かけないが、ぜひ、普及させたいものである。
最後に、親切な教示をいただいた岡村正治氏、参考文献の著者の方々に、この場を借りてお礼を申し上げる。 これを読んでの感想、意見、反論などありましたら、ぜひお送りください。今後の投稿や私の情報誌などに生かしたいと思う。

参考文献
サボテン・多肉・食虫植物 平尾博・日下部勇著
食虫植物研究会会誌132号「ネペンテスminamiについて」岡村正治
食虫植物研究会会誌各号

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