ケープタウンの探検−南アフリカの食虫植物各種の観察

Robert Gibson
(訳)間淵 通昭

 1997年の7月、私は南アフリカのCape Townでフィールドワークを行い、ドロセラ属17種、他にウトリクラリア、ロリズラの自生を観察することができた。Cape在住の栽培家Eric Green氏の案内、John Rourke, Neville Marchant両氏の種の同定、解説のおかげで、今回の調査はとても有意義なものとなった。

●その環境
 Cape TownはTable Mountain地域の北端に位置する。灰色の堅い珪砂岩が地盤となり、砂岩や泥岩の地層が連なっている。南東の海岸に近い地域では海から湿った風がTable Mountain地域まで吹き上がり、雲や雨を生み出す。降雨状況は地域によって500 mm-2000mmと大きく変わるが、多くは寒い時期(冬)に集中している。
 山頂の間の平野部にはピート質の土壌が堆積しているのが見られ、水を蓄え、またゆっくり流し出している。丘や谷の脇の酸性の砂質土壌も、上の谷から流れてくる水を蓄えている。冷涼な気候と霧や雨のおかげで、これらの地域の土壌は年間を通じて湿っており、余分の水はあちこちで小川となって流れ出している。それに加えて水は珪砂質の土壌深くしみ込み、地下水となって流れていく。この地下水は年中流れて、この地域の泉や湿地を潤している。
 植物相的には、Cape周辺は狭いながらも世界で有数の多様な植物が生息する「植物の宝庫」である。ここの植物相はfynbos(fine bush)といって、典型的な葉の形の植物が茂っている。低木も少なく、木は殆どといってない。だからTable Mountainは広々として壮大でさえある。

●ドロセラとその自生環境
 分類学的に見ると南アフリカのドロセラは種内での変異が多様な上、別種とされているものでも似たものもあり、さらには国外では未知のものも多く、はっきりしない点が多い。今回の観察からいくつかの点について述べるが、さらなる観察が必要である。取りあえずこれらは、葉、花茎の形状、生育の特性から大きく3つのグループに分けられる。

 【グループ1】冬成長し、春開花、夏に休眠するグループ。
D. cistiflora, D. pauciflora, D. trinervia, D. alba, D. zeyheri。
Cape Townを中心にPort Elizabethを東限、Klawerを北限とする南西アフリカに分布する。ロゼットから長い葉をつけた茎が立ち上がり、その先にわずかの花序をつけた花茎がつく。これらの花茎はケシの花茎のように最初折れ曲がっており、徐々に伸びていく。これらの花は概して大きく、属内でも最も美しい。

 【グループ2】常緑のグループ。
D. admirabilis, D. aliciae, D. capensis, D. cuneifolia, D. curviscapa, D. curviscapa var. esterhuysenae, D. glabripes, D. hilaris, D. ramentacea, D. slackii, D. sp. Floating。
多くはロゼット型である。托葉、花茎が発達しており、花茎はゼンマイ状に丸まった状態から伸びていく。

 【グループ3】D. regiaのように冬休眠するタイプ。
長い葉は成長とともにまっすぐに伸びる。

 以下に各種の自生状況を述べる。1.自生環境、2.形状、3.混生する植物の順に箇条書きする。
【グループ1(夏眠性)】
D. alba
1. Gifberg, Cedaebergの頂上の平地。開けた日当たりの良いところ。細かい砂質か粘土質の土壌で珪岩も所々露出している。小川の土手。短いfynbosの植生で、カヤツリグサの仲間、多肉、球根植物、Leucodendron属も共存する。水位、土壌湿度はよく変動し、冬はじめじめ〜水浸し、夏はカラカラに乾燥する。これに伴い、D. albaは冬に生育し、夏には地下に太い根を残して休眠する。
2. 根生葉は直径3cm程の平らなロゼットを作り、その上に長さ7 cmの長い葉をやや立ち上げる。単一の花茎を先端に伸ばし1-5個の直径1.5 cmの花をつける。
3. 単独か、D. trinervia, D. cistiflora, Roridura dentataの近くに生える。

D. cistiflora
1. 変異が大きく、また広い範囲に見られる。土壌はやや粘土質を含んだ砂質土で、季節によっては湿るが殆どの季節はやや乾燥気味である。
2. 一般に地面からまっすぐの葉を広げてロゼットを作り、そこから葉をつけた単一の茎を10-30 cm立ち上げる。そしてその先端に桃、白で中心部が黒い花を1-4個つける。葉の大きさ、葉の長さと幅の比率、茎の長さ、葉のつき方の強さ、株の背丈、花の大きさと色、腺毛の長さなどの変異は非常に多様である。赤花種はDarling付近に、濃紫花種はCape Town-Tulbagh間に見られる。後者の葉は付け根が弱く、すぐに茎からとれて地面に落ち、そこから再生して新しい株を作る。Simontown, Hermanus付近には中心が黒くない純白の花を咲かせるものがあった。これらの葉は比較的幅が広く、裏には長い腺毛が生える。小型種はCape北東に点在する一方、がっちりした大きなものはCedarbergに見られた。後者は幅1 cm、長さ5 cm程の葉が斜上したロゼットを作り、茎につく葉はないか非常に少なく、先端に咲く花は白で桃覆輪である。この変種は非公式ではあるがEric Green氏によってD. cistiflora var. Eitzと名付けられている。これら数多くの変異についてはさらに系統的な観察、研究が必要で、一定の形質を持ったものが相当数あるのか、それとも生態形(環境によって形状が変化したもの)なのかよく見極めた上で分類していくべきだろう。
3. D. pauciflora, D. zeyheriとはしばしば混生し、まれにD. curviscapa var. esterhuysenae, D. glabripesとも混生。

D. pauciflora
1. Cape Townの海岸近くの低く平らな丘に自生する。雨期にはかなり湿る、砂質或いはやや粘土が混じった砂質の土壌。私の観察した7月の数週間で成育を始めた。
2. 冬成長し、落葉性。厚く薄い緑の葉を広げ直径4 cmのロゼットを作る。葉先は丸っこくなり、短い腺毛と白い毛が葉の裏面に生えることから、混生するD. cistifloraのロゼット型の子株と区別できる。8-9月に1個強の花を付けた花茎を上げ、開花する。花はピンク、白、うすい黄色で中心が黒、直径は7-8 cmとドロセラ属最大のものである。
3. D. cistifloraと、あるところではD. trinerviaとともに生えていた。

D. trinervia
1. 雨期には湿る砂質の土壌に生える、冬成長、夏落葉するロゼット種だが、Bainskloof, Gifbergの珪砂岩が所々出た、かなり湿った細かい土壌に生えるものは恐らく常緑性と見られる。
2. 変異が多い。細い三角形状の葉の基部に小さいが顕著な2つの翼(棘、剛毛)をもっており、分類学上はこの翼が重要となる。葉の裏には3本の縦ジワが入り(種名の由来はここから)、変異によっては白い毛や短い腺毛が生える。冬の間11-12月までに1-3本の花茎をロゼットの中心から上げ、白(希にピンク)の花最大で12個つける。花の直径は通常1 cmくらいだが、かつてD. paucifloraの中に入れられていた変異種は直径2 cmで黒い中心の花をつける。形態学的には、葉や花茎の出し方の点でD. acaulisとD. paucifloraの中間であるが、時には棘をもつ点でD. aliciaeと置き換えられることもある。
3. D. alba, D. cistiflora, D. paucifloraと混生し、湿ったところではD. capensis, U. bisquamataと混生。

D. zeyheri
1. Caledon周辺の雨期には湿る粘土質を含んだ砂質土壌で、fynbosの植生が残存する。
2. 形態学的には、葉や花茎の出し方の点でD. cistifloraとD. paucifloraの中間とされるが、これまで両種のシノニム扱いをされてきた。幅の狭い先のとがった長さ4cmの葉をもつ、平たいロゼット型の種で、8-9月に短い花茎を伸ばし、中心が黒い、ピンクまたは赤の花を1-3個咲かせる。
3. この種を独立種として分類するにはさらに研究が必要であるが、同時に生えていたD. cistifloraより、さらに日当りのよいところに生えていたことを注記しておく。

【グループ2(主に常緑性)】
D. admirabilis
1. Silvermineの湿ったピート質の、希に小川の浅いところ(洲)に自生。高さ50 cmのカヤツリグサの仲間や高さ2mの低木により日陰になっているが、これらは山火事により定期的に焼け落ち、その下の植物は強光にさらされる。
2. 非常に目立つ常緑性のロゼット(直径最大8cm)。さじ型の葉、表には長い粘液を出す腺毛が一面に生える、裏は白く長く枝分かれしない毛で覆われる。無色の長三角形の托葉は3つに分かれている。
3. 近縁のD. aliciae, D. cuneifoliaが近くに生えるが、本種はより日陰のところを好む。

訳者註:
昨年Capeの自生地を訪れた宮本氏も同様に半日陰の植生を見てこられた。なお、本報告と宮本氏の採集されてきたD. admirabilisの特徴を聞く限りでは、フランスの業者が数年前に売っていたものは真正種らしく、D. aliciaeよりやや大型になる、葉の縁の腺毛がD. burmaniiのそれのようにスキーのスティックのような形になる等の特徴がある。以前のJCPS誌に稲穂氏が記事を出しておられたように、Allen Lowrie氏の種子からはこれと全く異なるD. burmanniに類似するドロセラが出てくる。こちらは誤種だろうが、D. burmanniとは多少形態や性質が異なり、これが何であるかは不明である。

D. aliciae
1. クレバス、珪岩の崖の水の湧き出るところ、小川のピート質の砂地、Cape周辺、Silvermine, Hermanusの湿地、Bainskloofの湿った珪岩の崖等。いずれも日当たりのよい所である。
2. ロゼットの直径は最大5cm。シノニムであろうD. admirabilisとは葉、托葉の形は同じであるが、葉の形や毛の生え方が微妙に異なる。さらに分類学的研究が必要となろう。
3. D. capensis, D. cuneifolia, D. slackii, R. dentata, U. bisquamataの集落によく見られる。

D. aliciae x glabripes
Hermanusの湿地の脇の丘に、自然交配種とみられる2株があった。湿ったピート質の砂の土壌に生えるD. aliciaeの群生の中に見られ、葉の幅がやや狭く、より薄い緑色であることからD. aliciaeとの違いは顕著である。花と染色体数を見れば、交配種であるかどうか及び両親が何であるかが分かるだろう。

D. capensis
 栽培品では珍しくないが、野生の状態で見るのはやはり興奮するものである。
1. Constantiaberg, Hermanus, Bainskloof, GifbergのD. aliciaeと同様の環境下に、湿った珪砂、じめじめしたピート質の土に、またBainskloof, Gifbergでは水苔上に生えていた。一本ずつバラバラに生えているところ、また数百株が群生しているところなど様々であった。一般に常緑であるはずだがBainskloofでは冬の休眠期?から再生したとみられる株が多数見られた。一方でGifbergでは開花しているものもあった。
2. 葉長は15cmに達し、保存されている標本から観察する限り、"narrow leaf"タイプが最も一般的である。"broad leaf"タイプもHermanusに少数あった。
3. D. aliciae, D. slackii, D. trinervia, U. bisquamataと混生。

D. cuneifolia
1. Cape地方の高山Table Mountainの固有種。小川の脇のピートまたはピート質の砂地など湧き水のしみ出るところに生える。しばしばこの高山は雲に覆われる。低い植生であり、日照は十分である。
2. くさび型の葉を水平に広げ、ロゼット径最大8cm。葉の表は腺毛に覆われ、裏には白い毛が一面に生える。
3. D. aliciaeと混生し、近くにはD. trinerviaの自生地がある。

D. curviscapa
1. Hermanus周辺の丘の斜面の湿った砂質土に生える。小川や湿地からは離れており、土壌湿度は雨の降り具合によりよく変動し、そのためか夏の乾燥時には成長が遅くなったり、或いは止まったりしている(Eric Green氏の観察による)。植生は低く、それも数年ごとの山火事で焼け落ちる。そのとき本種の地上部も焼け、後に根から再生する。
2. 黄緑色の葉のロゼット種でその直径は最大5 cm。徐々に立ち上がり、2 cm程の高さに達する。葉の裏には一面に白い毛が生える。托葉は一般に無色の狭い三角形で3つに分かれている。分かれた真ん中の部分はやや幅が広く、先端には小さな裂片がある。変異があり、葉身の先2/3程しか腺毛がないもの、また、葉一面に腺毛が生え古くなるにつれ赤くなる地域変種があった。因みに、本種の名前は初期の花茎の顕著な曲がり(curvature)に由来する。
3. しばしばD. cistiflora, D. glabripesと混生。

D. curviscapa var. esterhuysenae
1. Hermanusの海岸に近い丘に自生する。各個体が離れて自生している。
2. 薄い緑色の葉、ロゼットがやや茎立ちすること、花茎の出し方、自生状況はD. curviscapaによく似る。ロゼット径8cmと大型になり、新しい葉が斜上する、山火事にあわなければ高さ10 cmにまで茎立ちすること、等の点に特徴がある。
以前は独立種D. esterhuysenaeであったが、D. curviscapaの変種に格下げされ、最近D. aliciaeに統合。D. aliciaeとはへら型の葉で葉の裏に白い毛が多く生える共通点はあるが、緑の色素が薄く、花茎の立て方が異なる、より乾燥したところに自生するなど、明らかに区別できる。
3. D. cistiflora, D. curviscapa, D. glabiripes, D. trinerviaと混生。

D. glabripes
1. Silvermine, Hermanusの南に面した丘の斜面に草に隠れるように生えている。砂質の土壌で、雨期には湿る。しばしば雲に覆われて高湿度となり、同時に低い植生によってかなり遮光された環境となる。
2. 斜上した葉をつけた直径5 cmのロゼットで40 cm程までに茎立ちするが、滅多に枝分かれはしない。細い葉柄は先にいくにつれ徐々に幅広になり、オリーブ色の卵型の葉身に達する。葉の裏には白い毛がまばらに生える。托葉は白く、その先は糸状に細かく分かれている。山火事で焼け落ちた後再生するが、ある程度のものは枯れてしまう。D. glabripesを覆っていた低い植生も同時に焼け落ち、再生するが、このとき大きな木などは取り除かれるようだ。
3. D. cistiflora, D. curviscapa var. esterhuysenae, D. hilarisと混生。

D. hilaris
1. 分布と自生環境はD. glabripesとよく似ている。しかし、D. glabripesよりさらに直射日光を好まないようだ。
2. 60 cmの枝分かれしない茎の先に斜上した葉をつけロゼットを形成する。幅広い葉は長さ13 cm、葉柄は幅広く、葉裏と同様に白い毛で覆われる。
3. D. glabripes, D. ramentaceaと、非常に希にD. curviscapa var. esterhuysenaeと混生。

 訳者註:
D. hilaris, glabripesの項で自生地は他の植物に遮られ陰になるとありましたが、宮本氏に問い合わせたところ、宮本氏の見つけた群生地は決してそんなことはなくビデオで見たら分かるとおり日当たりの良い山の斜面に生えており、他の背の高い植物はほとんどなく、glabripesの群生地などは山が赤く見えるほどだった、ということでした。日陰のような所にもD. hilarisはあったそうですから、いわゆる後退種のようなものでは?と思われます。

D. ramentacea
1. Cape Town付近の南海岸に面した丘。雨期にはかなり湿った土壌となる。
2. D. capensisのhairy(毛が多い)タイプに似る。幅の狭い葉で、葉の裏と葉柄には白い毛が多く生える。20cm程に茎立ちするが、枝分かれはしない。定期的に山火事にあって焼け、また根から再生する。花茎は春に出し、標本で見る限り、しばしば二又に分かれている。
3. D. glabripes, D. hilarisと混生。

D. slackii
1. Hermanus周辺の丘陵地帯の常湿地。この高地は海岸に近く、しばしば濃い霧や雲に覆われる。
2. 鮮やかな赤色の希少種。直径最大6 cmのロゼット型で、成長点や葉の裏には太い毛がまばらに生える。托葉は先が開裂している。長い腺毛が葉の基部以外を覆う。
3. D. aliciae, D. capensis, U. bisquamata, R. gorgonias。

D. sp. Floating
1. Baviaarskloafのある地域の小川の浅瀬(洲)にU.bisquamata、種々のcobble plantとともに生える。
2. 直径最大3 cmの赤く平らなロゼットを作るが、土壌が数cm水没すると特異な生態を示す。下葉がアーチ状に反り返り、葉の節間が伸び、先端のロゼットが水面に浮くまでになる。水中数cmの茎は、水底にしっかり張った根とつながり、浮いた植物体を支えている。栽培下でもこのような条件を再現すると、このような状態になる。葉は腺毛に覆われ、裏側にも消化腺とわずかな白い毛が見られる。葉の形は楔形に近くD. aliciaeというよりD. cuneifoliaに近いように思われるが、分類学的にはさらなる観察を要する。
3. 同じようなところにU. bisquamata、近くのピート質の砂にD. regia。これも残存種であろう。

訳者註:
D. sp. FloatingはD. aliciaeかその近縁種であると思われます。私はドイツのThomas Carow氏の栽培場で本種を見ました。水中に植えるというような特別の環境をつくらなくてもよく、通常の方法で栽培できるようですし、そうなるとやや小さいという点くらいしか特徴はありません。

【グループ3】
D. regia
1. この巨大種の自生地は限られており、Baviaanskloofのある谷とCape Town北東部の山中に自生するのみが知られている。私が訪れたのは高度の最も低いところで、岩のくぼみや狭い小川の脇にLeucodendron, restios, カヤツリグサの仲間、他のfynbosとともに生えていた。休眠期の終わりで新葉がまだ展開しはじめたところだったので、最初本種を発見するのは困難だった。数株が根でつながったようになっており、湿ったピート質の砂に生え、時として根を砂礫の上から露出させているものもあった。
2. 最も成長の進んだもので葉長15 cmだったが、夏の開花時には葉長70 cmまでになるという。
3. 同じ小川にU. bisquamata, D. sp. Floatingがあった。

【その他】
U. bisquamata
1. Constantiaberg, Hermanus, Gifbergの常に湿った地下水位の高い所に生える。小川のせせらぎの中に生えるものや、水が豊かな崖に着生しているのも見られた。一年で悪い時期にも関わらず、多くの場所で開花しているのが見られた。
2. 細い花茎を12 cmほどに伸ばし、3個ほどの花をつける。花は大きさ2-5 mmで下唇は紫で、上唇とともに真ん中には顕著な黄色のふくらみがある。
3. D. aliciae, D. capensis, D. slackii, D. trinervia, R. gorgonias。

●栽培上のヒント
 以上の自生地の環境と、Eric Green氏の見解に基づき、南アフリカ産ドロセラを栽培上、三つのグループに分けることにする。以下、普通の温暖な地域で栽培するためのヒントを述べてみよう。

(a) D. cistifloraに代表される冬成育、夏休眠するグループ(上のグループ1と同じ)
 砂9、ピートモス1の混合土で植え、日当たりの良いところで管理すればよく育つだろう。休眠状態から成長を再開させるには温度より土壌湿度が重要だと思われる。長く成育させるには、浅い腰水にしてやると良い。生育期間が終わったら、用土をわずかに湿っている程度にして、夏期は乾燥させすぎないようにする。要するに日陰に置いて時々水をやるようにすればいい。D. trinerviaタイプのものは常に水をやっていれば年中成育すると思われるが、これはテストしてみて欲しい。増殖は葉ざしもできるが、根伏せは植物体にダメージを与えることが少なくベストだろう。実生は秋まきがベストだろう。恐らく煙を通した水をやれば発芽率を高めることができるだろう。

(b) 夏に落葉する、茎立ちするグループ(D. glabripes, D. hilaris, D. ramentacea)
 これらは南、東の海岸に面した小高い丘の、雨期のみ湿る砂質の土壌に生えており、他の植物により日照が遮られて半日陰となる。そこで、砂3、ピートモス1の混合土で大きな鉢に植え、やや日陰気味のところで腰水栽培をする。もし夏眠するようなら、成育を再開するまで用土をやや湿っているという程度にしてやる。実生か葉ざしで殖やせるだろう。これらのグループの中ではD. glabripesが一番栽培しやすいと思われる。

(c) 常緑性のグループ
 これらは年中よく湿ったピート質の土壌に生えている。ピートモス単用か、少量の砂との混合土で植え付け、年中腰水にして管理する。U. bisquamataも同様である。D. sp. Floatingの腰水の水位を徐々に上げていき、1-3 cmほど用土表面より高くなるようにしてやれば、自生地のように「浮いている」状態を再現できるだろう。D. curviscapa類はピートモス1、砂1-2の混合土とし、やや湿っているという程度にする。こうすれば自生地同様、夏期に成長がゆっくりになるだろう。全ての種類について、よく日に当ててやるのがよい。増殖は種子か根伏せ(また、多くのものに葉ざし)。

●最後に
 今回の4週間のフィールドワークはすばらしい体験だった。日頃栽培品で見かける種類が野生の状態で生えているのを見るのも衝撃的だったし、また今まで写真でもあまり見たことのないもの、本でも簡単な記述しかなかったものを目の当たりにできたのは大変スリリングだった。様々な植物の形状、生育環境を色々比較できたのも大変興味深く、母国オーストラリアの植物以上に親しみを感じるようになった。また別の季節にこの地を訪れてまだ不明の分類、生態についての問題を明らかにしてみたいと思っている。

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