新種D. paradoxaについて
Allen Lowrie
(訳)間淵 通昭
【分布】
西オーストラリアとノーザンテリトリー。前者では主に西岸、北岸から発祥し、Kimbery地域へ、さらにBeverly Springsのような離島までに拡がる。後者では東部のArhnhem Land, Kakadu国立公園を発祥とする。よく見られる種で、今のところ絶滅の危機はない。
【自生環境】
乾期には干上がる小川の浅瀬や砂質の土壌をもつ土手の舗道に生える。3-4月の雨期には本種の生える地面には水が出てかなり急流となる。
開花は乾期7-9月(訳者註:花色は主にピンクで、メタルオレンジという非常に美しいものもあるらしい)。
【名前】
種名のparadoxaはギリシャ語のparadoxos(英語のparadox:「逆説的な」に同じ)に由来している。1993-1997年の乾期、雨期における本種の生態調査を行ったところ、その生態は非常に複雑で謎めいていたことからこの名が付けられた。
【形態】
近縁種のD. petiolarisとは以下の点で区別できる。
D. paradoxa | D. petiolaris |
最大30cmの木質化した茎が立ち上がり、 先端に単一の株分かれするロゼットをつける | 塊状の多年生のロゼット |
線状の葉柄 (幅0.2-0.4 mm) | 平たい葉柄 (幅0.4-0.8 mm) |
下の古い葉を落とす | 基部には古い葉が沢山ついたまま |
最大40cmもの長い花茎 。50-70個、時にはそれ以上の数の花が密生する | 最大20cmの花茎花は10-25個 ややまばらにつく |
先にも書いたように、初期の自生地観察では本種の生態は不可解な点が多かった。前の季節にかつて親株が生えていたところに沢山の実生苗が観察され、本種は一年草とされた。かと思えば、茎が長くなり木質化した古株ばかりの自生地も見つかり、また別の所では茎の短いロゼット型の株だけが生えていた。数々の自生地観察を続けるうちに、結局これらは、多年生である本種の生育サイクルの内の色々な段階であることが分かった。 時として激しい雨季には本種の植生が水で流されることがある。 私は1997年の7月にKimbery地域のKing Edward川の分岐点でこの状況を見たことがある。1994-1996の間、毎年調査していた本種のほぼ全部が溢れた水に流されてしまった。その後の調査で、流れた土が堆積したところから直径1-2cmの実生苗が多数再生しているのを見つけることが出来た。明らかに、雨季の水流に流されずに残ったものだけが、上述の古株だけの自生地を作るのだ。